婚姻費用
目次
婚姻費用とは?
夫婦は結婚して、共同生活を営むことになります。この生活には当然お金がかかります。この婚姻生活を維持するための費用を婚姻費用と言います。
夫婦関係が円満なときには問題になりません。うまくいかなくなり、別居したときには、夫婦の一方から他方に対して、婚姻費用の請求をすることになります。
婚姻費用分担義務
夫婦は互いに協力して扶助する義務を負っています。婚姻生活を維持するための費用である婚姻費用についても相互に分担することになります。
婚姻費用の内容は、生活扶助義務にとどまらず、生活保持義務であるとされています。つまり相互に自分の生活と同じレベルの生活を相手にもさせなければならないということです。
婚姻費用の分担は、通常は、収入の多い夫から相手に対して、金銭が支払われます。
婚姻費用を求めるには?
婚姻費用を決めるには、本来は夫婦間のことであるので、夫婦の協議で決まるのが原則です。
しかし、夫婦間の話し合いで合意できないには家庭裁判所に調停を申立てます。
調停でも合意できない場合には、自動的に審判に移行します。審判では、双方からの主張、資料の提出を行われ、それらの資料を元に家庭裁判所が婚姻費用の支払いに関する決定をします。
婚姻費用の金額はいくらになるのか?
婚姻費用が夫婦間の話し合いで合意できた場合は、その金額が婚姻費用として支払うべき金額になります。
話し合いでまとまらなかった場合には、調停または審判で決定することになります。
家庭裁判所においては、原則として「養育費・婚姻費用算定表」を利用して算出される金額をもとに、婚姻費用額を決定します。
この算定表は、標準的な婚姻費用を簡易迅速に算出するために考案されたもので、夫婦の収入、子どもの人数・年齢により、標準的な婚姻費用が算出でます。
算定表はある程度の紛争の個別性を加味して作成されており、まずは算定表から計算し、そのままの計算では不公平であるときに、その事情をどのように考慮して金額の修正をするかという形で調停は進行することが多いです。平成28年11月15日、日本弁護士連合会から新養育費・婚姻費用 算 定基準表が公表されました。現時点で、この算定表が実務で使われているわけではありませんが、今後多くの事案で主張されることになり、影響を与える可能性はあります。
いつからいつまでの婚姻費用を請求できるのか?
婚姻費用のいつからの支払いを求めることができるかは、夫婦間の話し合いによることになりますが、調停の申し立てをした場合は、実務上、調停の申し立てたときからとしています。
したがって、別居したが、相手から生活費が支払われない場合などには、すぐにでも家庭裁判所に調停を申し立てなければなりません。
未払いの婚姻費用が存在する場合に、支払いを受ける側にとっては、酷な結論となりますが、場合によっては財産分与で過去の婚姻費用未払い分を考慮するような主張をすることはあります。
婚姻費用の終期は、離婚が成立したときです。婚姻生活の維持のための費用
であるから当然のことです。
婚姻費用成立後の問題
①事情変更による増減額請求
婚姻費用が決まった後に、婚姻費用を受け取る側及び支払う側の経済状況等が変動することがあります。このような場合には、その変動に応じて婚姻費用を変更することができます。
具体的にはリストラで勤務先を退職した、勤務先の経営難により、大幅な給与の減額があった、子どもが病気になって、高額な医療費が必要になった場合などが事情の変動にあたります。
ただし、婚姻費用を変更するには、再度、調停または審判の申し立てをする必要があります。
②決まった婚姻費用を支払ってくれない場合
強制執行
家庭裁判所での調停や審判で、相手が婚姻費用を支払うべきことが決まった場合は、強制執行することができます。
公正証書を作成している場合も同様です。
婚姻費用は、養育費の場合と同様、差し押さえ可能な範囲が拡大されており、たとえば、給与の差し押さえであれば、2分の1まで差し押さえることができます(通常は4分の1)。
また、期限未到来の分についても差し押さえが可能になっています。
履行勧告
家庭裁判所で調停が成立したのに、婚姻費用の支払いを怠る場合に、家庭裁判所に申し立てを行い、婚姻費用を支払うよう相手に勧告することもできます。
履行勧告は、費用もかからず、申し出をするだけで足りるので、よく利用される制度です。
しかし、強制力がないので、最終的には強制執行をしなければならないことが多くあります。
婚姻費用についてのよくある質問
質問① 婚姻費用の支払いを求めたところ、相手からお前が悪いのだから支払う必要はないと言われた。
回答
有責配偶者から婚姻費用が請求された場合であっても、婚姻費用が全て否定されることはほとんどありません。
有責配偶者であっても、生活保持義務自体はあり、減額される可能性はありますが、調停においては、有責性の判断が難しいこともあり、原則としては婚姻費用の支払い義務があると考えられます。
質問② 別居で、妻が家に残り、住宅ローンの支払いは夫がしている場合、婚姻費用の金額に考慮されないのですか?
回答
住宅ローンの支払いは、資産形成の側面もあり、また、全額を考慮に入れると婚姻費用が少なくなるという問題があります。
他方で、まったく考慮しないとすると、支払う側に大きな負担になります。調停においては、双方の生活状況や住宅ローンの額を検討し、一定割合を考慮することがあります。
質問③ 同居の場合に婚姻費用を請求された場合はどうなりますか?
回答
同居であっても生活保持義務はあります。しかし、算定表は別居を前提に作られたもので、当然に適用することは出来ません。
生活状況、収入と支出、算定表も参考にして妥当な金額を決めていくことになります。