パワーカップルの離婚
目次
1 パワーカップルとは何か?
昨今、パワーカップルという言葉をよく耳にします。明確な定義があるわけではありませんが、一般に夫婦双方ともに収入が高い場合をさします。
具体的には、書籍等によってわかれますが、夫の収入が600万円以上、妻の収入が4
00万円以上あり、世帯収入が1000万円を超える場合と言われたり、夫婦それぞれが
700万円以上ある場合と言われたりしています。
2 パワーカップルの離婚の特徴
パワーカップルといっても、夫婦が離婚する場合に決めなければならないことが、他と違うわけではありません。しかし、その大きな特徴としては、双方に収入があるが故の問題、つまり財産分与が大きな問題となります。
つまり、パワーカップルの場合は、一般的な離婚の問題に加えて、財産分与で検討しなければならないこと、争いが生じることがあるのです。
3 パワーカップルの財産分与
パワーカップルの離婚で問題なる財産としては以下のようなものがあります。
(1)不動産・住宅ローン
パワーカップルの場合、高額のローンを組んで不動産を購入していることが多いでしょう。そして、従来は夫が単独でローンを組み、不動産の名義も夫単独のことが多かったのですが、パワーカップルの場合は、ローン名義も、不動産の登記名義も2分の1としているケースが増えています。ローンが全く別の場合、連帯債務の場合など、個別に異なります。
そうすると、この不動産を離婚後にどのように処理するのかが問題となります。例えば妻が子と一緒に離婚後も住むとした場合、夫のローンと登記名義をどのようにするのかが問題になります。この場合に財産分与で夫の所有権を取得し、ローン名義も変更する、ローン名義も登記名義もそのままでローンの支払いは夫が継続する、または妻が支払うなどがあり得ますが、それぞれに解決しなければならない問題があります。
売却する場合は利益が出るのか、出ないのか、全ての場合に問題になりますが、頭金は誰がいくら出しているのか、それをどのように処理するのか、他の財産とも関連してきます。
(2)退職金、確定拠出年金、企業年金
パワーカップルの場合は、それぞれが勤務している会社の退職金があることが通常でしょう。退職金は裁判実務においては、財産分与の対象財産となるとされることが通常です。その上で、退職金支給までの期間の長短、企業の規模、属性、勤務年数などを個別に考慮し検討します。基本的には基準時(別居時とされることが多い)において自己都合退職した場合の退職金額から結婚前の分を控除した分は財産分与の対象となります。また、退職金と関連しますが、確定拠出年金、企業年金なども財産分与の対象とされます。
(3)子ども名義の預金
パワーカップルは、夫婦ともに高学歴であることが多く、教育熱心です。子どもの教育資金として、子ども名義の預金に積立をしていることが多くあります。子ども名義の預金は、子どもの年齢、預金額等から子ども自身の財産として考えるか、夫婦の共有財産を子ども名義の預金にしていると考えるかは分かれますが、教育資金としてある程度高額な預金をしている場合は、財産分与の対象財産となる可能性が高いと思われます。
その場合に単純に2分の1とするのか、子どものための積立として、親権者が管理するとするのか、今後の教育方針についての親権を取得しない親の関わり合いなども問題となるでしょう。
(4)特有財産
双方の収入が高いが故に結婚前から有していた財産があります。これは特有財産として財産分与の対象から除かれます。問題となるのは、結婚前の預金が分別管理されているか、結婚後に共有財産に混入していないか、結婚当初は特有財産であっても、結婚後は共有財産からの支出があるか
などでしょう。
特有財産であるか否か、特有財産があるとしても結婚後どのように変化したかなど
問題になることが多くあります。
4 パワーカップルの財産分与の進め方
(1)客観的財産の確定
まずは双方の名義の財産を全て明らかにします。一方が明らかに隠匿している、そもそも明らかにしない場合などは、調停、訴訟の中で任意の開示を求め、それでも開示しない場合は調査嘱託をしていく必要があるでしょう。
(2)財産の評価
双方の財産を明らかにした上で、財産の評価を出します。通常は別居時によりますが、財産によっては、評価は現在時点によることもあり、まず基準時をいつとするかを決め、基準時に存在する財産は何か、評価をどうするかを検討します。預金は別居時となるのでしょうが、株式の評価は不動産の評価は現在時点とするなど。
(3)特有財産等
特有財産として何があるか、子ども名義の預金など名義の異なる財産で財産分与の対象となるものがあるかを整理します。
(4)債務等
債務の中でも夫婦共同生活のためのものは財産分与で考慮されます。住宅ローンや車のローンなど。考慮の仕方は問題となることがあるので、双方の主張を整理していきます。
(5)各項目における双方の主張
まず客観的財産を整理し、各項目における双方の主張を検討していきます。例えば不動産の評価の争い(評価そのものや、頭金の支出など)、預金を別居時としてもその前後の動きから争いが生じる場合、特有財産として認められるかどうかなど。こうした主張の相違を調整していき、双方の合意できる点を探っていきます。
5 当事者同士の話し合いで解決が可能か
パワーカップルの場合は、一般的な離婚の争いに加え、財産分与が通常以上に法的争点を含む場合が多くあり、弁護士に依頼せずに進行させることは難しいといえます。そして、双方ともに仕事が忙しく、離婚問題に時間を多く避けないという実情があります。離婚の問題が仕事にも影響を与え、大きなストレスになります。
また、財産分与での財産の開示や評価など争いが生じ、当事者だけでは適切な解決を見いだせなくなります。
このようにパワーカップルの離婚は、トラブルになりやすく、紛争が長期化し、実生活
に影響が出てしまうことから、早期に弁護士に相談し、依頼することを検討すべきでしょ
う。